コラーゲンについて~柔道整復師の目線から~

◆ コラーゲンってなに?

コラーゲンは、腱・靭帯・筋膜・骨・皮膚など、私たちの身体の構造を支える「たんぱく質のロープ」のようなもの。
特に接骨院で扱うケガの多く——捻挫、肉離れ、打撲、骨折、靱帯損傷など——には、必ずコラーゲンの破壊と再生が関わっています。

つまり私たちは、「痛みを取る」だけでなく、「壊れたコラーゲンを再生させている」と言っても過言ではありません。


◆ 損傷した組織は、どうやって治るの?

組織が傷つくと、体はその部分に「新しいコラーゲン」を送って修復します。

その流れはこうです:

  1. 炎症期(受傷直後):柔らかいタイプのコラーゲン(Type III)が急いで集まる

  2. 増殖期(数日後):少しずつ強いコラーゲン(Type I)が作られ始め、整列しはじめる

  3. リモデリング期(数週間~):正しい方向に並び、固定され、強い線維へと成熟する

このように、傷んだ組織は「作って → 並べて → 固めて」治っていきます。


◆ 柔道整復師の仕事とは、「正しいコラーゲン再生の手助け」

ここで重要なのが、「どういう環境でコラーゲンが作られるか」ということ。

たとえば…

  • 酸素が足りない

  • 血流が悪い

  • 酸性に傾いている

  • 動かさずに放っておく

…こういった状態では、コラーゲンを作る酵素が働かなくなってしまい、治りが遅くなることが分かっています。

私たち柔道整復師は、そうならないように:

  • 手技療法で血流を改善したり

  • 固定で炎症をコントロールしたり

  • 温熱や電気療法で組織の代謝を高めたり

  • 適切なタイミングでストレッチや運動指導を行ったり

することで、コラーゲンの「質」と「整列」をサポートしています。


◆ だからこそ、早めのケアが大切

痛みがあるうちはもちろん、痛みが引いても「コラーゲンの再構築」はしばらく続いています。
この時期に適切な刺激を入れることで、強くてしなやかな組織が再生され、再発予防にもつながります。


◆ 最後に

「柔道整復師は痛みをとる人」というイメージがあるかもしれませんが、
実はその奥で、“身体の中で起きている再生の流れ”に深く関わっている仕事なんです。

ケガの早期回復や、長引く痛みに悩む方は、ぜひ「コラーゲンの再生を手助けする」という視点からも、接骨院でのケアを活用していただければと思います。

柔道整復とは

柔道整復とは「細胞をデザインする仕事」である

ケガを治す。
それは、骨がつく、靱帯が修復する、関節が動くようになる——
確かにそうだけど、もっと深く言えば、それはすべて「細胞の営み」で起こっている。

柔道整復とは、その細胞たちが働きやすいように「環境を整え」「時期を見極め」「適切な刺激を与える」仕事だと、私は考えています。


■ 整復とは、細胞の足場を整えること

骨折や脱臼の整復操作。
私たちは骨を戻す。でもその本質は、細胞外基質(ECM)を正しい位置関係に戻すことにあります。

それによって、炎症細胞・線維芽細胞・骨芽細胞などが「ここで働けばいいんだな」と理解し、必要な修復活動が始まります。
いわば、整復は細胞たちの作業場を整える作業なんです。


■ 固定とは、「静かな修復環境」をつくること

受傷初期には、あえてメカニカルストレス(機械的刺激)をゼロに近づけます。
これは、細胞が集中して働けるように、余計なノイズを遮断する期間

ギプス固定はただ動かないようにするためのものではありません。細胞の活動を妨げないための空間管理なんです。


■ 血流、浮腫、反応熱——視診・触診・エコーで「細胞の声を聞く」

修復が進めば、炎症が引き、VEGFの作用で新生血管が形成され、血流が戻ってきます
私たちはそれを、視診・触診・超音波エコーで読み取る。

その情報から「そろそろ細胞たちが刺激を求めているな」と判断できる。
つまり、細胞の“やる気”を感じ取っているんです


■ メカニカルストレスは“指示”であり、“教育”である

タイミングを見て、他動運動、荷重、ストレッチ、筋収縮刺激などを少しずつ入れていきます。
それはただのリハビリじゃない。細胞に向けた“働き方指導”なんです。

やりすぎれば壊れるし、少なすぎればサボる。
適切な強度・頻度・方向性でストレスを与えることが、正常なリモデリングにつながる。

柔道整復師の技術とは、その加減を見極める“感性と知性の融合”だと思います。


まとめ:柔道整復は、時間軸と生物学を味方につける仕事

整復も固定も、運動療法も、テーピングも、治療器も——
ぜんぶ手段です。大事なのは、「今この細胞たちに何をしてあげるべきか」という視点を持つこと。

私たちは、ただ痛みを取る職人ではない。
“細胞の再建をデザインする”治療者であるべきだと思うのです。

鎖骨骨折②

原因
上肢を後ろに伸ばして(伸展)して倒れたり、肩を下にして転倒した場合の介達外力によって受傷する例が多い。どの年齢層においても頻度の高い骨折である。

↑前回の記事から引用。
原因と書いてありますが、言い換えれば「受傷機転」てやつですね。

教科書には必ず書いてあります

なぜ受傷機転を考えるのか

それは整復をするため

これに尽きると思います
だいぶ柔整チックな考え方だと思いますが、私はここに柔整師が外傷をみる価値を感じています
鎖骨骨折に限らずの話ですが整復は受傷の反対です
「受傷が分かれば整復はその逆を辿るだけ」なんて言いますが、本当にその通りだと思います

鎖骨骨折に当てはめて考えてみましょう
原因に手をついてとありますが、多くの鎖骨骨折は肩をついての受傷でしょう
転倒して肩を前からついたか、後ろからついたかで大きく分けられます

猫背になるように肩を丸めて転倒すると、肩の後ろから地面につくことが多いです。
バイクの交通事故なんかで勢い余ったまま前方に放り出されると肩の前から地面につくこともあります

大きくこの2つのパターンです

 

定型的骨片転位について

ここで鎖骨骨折の定型的転位について振り返ります

近位骨片は胸鎖乳突筋に引かれ上方へ、遠位骨片は上肢・肩甲骨の重さにより下方へ転位する。

何が言いたいかというと、先ほど説明したどちらの受傷機転でもこの定型的転位になるということです

 

受傷↔︎整復

鎖骨骨折の整復=肩を後方に引く
は誤りです
遠位骨片が前方からのルートを通って定型的位置にきたものに対して、いくら後方に引いても整復位を取れることはありません
だって受傷の逆を辿っていないんだから

鎖骨骨折

原因

上肢を後ろに伸ばして(伸展)して倒れたり、肩を下にして転倒した場合の介達外力によって受傷する例が多い。どの年齢層においても頻度の高い骨折である。

病態

鎖骨骨折では、中央1/3の骨幹部骨折が約80%を占める。近位骨片は胸鎖乳突筋に引かれ上方へ、遠位骨片は上肢・肩甲骨の重さにより下方へ転位する。

症状・診断

外傷の病歴と局所変形、疼痛、異常可動性で明らかである。時に腕神経叢の損傷を合併する。
血管損傷はまれであるが、直達外力による損傷の場合には注意を要する。
X線診断では前後方向のほか、30°仰角撮影を行なって胸郭との関係をみておく。

治療

保存療法の場合、胸を張り両肩を後方に引くことで鎖骨の変形を矯正して鎖骨バンドを装着する。約4週間で骨折部の不安定性がなくなればバンドを除去し、2~3週間90°以下の外転制限とする。20mm以上の短縮や転位・粉砕が強い場合は、保存療法では変形治癒や偽関節の可能性が高いため手術療法が推奨されている。また若年者などで早期社会復帰が必要な場合も同様である。

標準整形外科学 第13版より引用

まあこれがよく言われているスタンダード?なことだと思います。
明日以降はもう少し詳しくみていきたいと思います

ATFL付着部裂離骨折②

治療の主眼をどこに置くか
今回はこのテーマについてお話をしていきます

受傷直後から外果周辺がぷくっと腫れますが、それでもほとんどの子が歩けるのです
なんなら走れちゃう
なので「捻挫かな」で済まされることが多いのですが、、

骨折だと思って来院される方はほとんどいないでしょう

受傷直後からその程度の歩行時痛しかないので、簡易的な固定をするだけでも2.3週間してしまえば痛みはほとんど消失します。

そういった観点から、痛みをとることは治療の主眼にはならないでしょう

ズバリ治療の主眼は「骨癒合させること」です
骨癒合しなかった場合に初めて足の不安定性が生じます
繰り返し捻挫をするリスクが高まります

けがというのは何でもそうですが、初期の治療がとても重要です
陳旧性に移行してしまったらもう2度と元の状態には戻せないのです

1ヶ月後に大事な試合があったとしても強固な固定をするしか方法はないのです

以上のことは文章にすると容易に理解できるのですが、実際に巷でそんな治療が行われているかというとそんなことないのです。

これは施術者側が治療の主眼を間違えていると言わざるを得ません
最初は足首が腫れて痛いと来院された患者さんが次第に痛みがなくっていけば順調に良くなっていると勘違いしてしまいます
さらに近年は治療の主眼を履き違えただけの「早期復帰」という風潮が蔓延しています。
足首はぐらぐらだけど、それには施術者も患者さんも気づくことはないので、「最新のなんとかって治療をして2週間で試合に間に合わせた」みたいなことが起こるのです

この先の未来を考えたら後遺症なく治すことが一番大切です

ATFL付着部裂離骨折

前距腓靱帯(ATFL)付着部の骨折はよく見られる骨折の一つですが、見逃されることも多い骨折であると、前回の記事でお話ししました。

実はこの骨折、正しい診断を受けてもちゃんと治っていないことが多いです。
骨折は、折れた部位を固定しておけば自然とくっつく。みたいなイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。 骨癒合させるには技術が必要なのです。

私の整形勤務時代の経験からお伝えすると、 前距腓靱帯(ATFL)付着部の骨折はほぼ100%の確率で偽関節になっています。

理由は以下です
・サポーターやテーピングで管理される
・シーネで管理される

しかもこのシーネはお風呂では外していい、治療の時は固定を外すなどまったく意味のない固定です
シーネもギプスも別に変わらないだろと思われるかもしれませんが、実は全く違います
シーネでは足関節背屈位で固定肢位を維持することは難しいです。シナシナ動きます。
牽引力のかかりやすいこの部位の特性上、背屈位での強固な固定は必須なのですがシーネではそれができない

またギプスを巻いてもらってるから安心ではなく、ギプスを巻く前に整復をしたか、適切な角度で固定をされているかが重要です

意外に考慮されていないのですが、ギプスを上手に巻く技術あるかどうかが大切です
同じ材料でやっても作る人間によって美味しさが変わる料理と一緒で、ギプスも巻く人間によってその後の治りが変わってくるのです

多くの治療の流れとしては、
なんとなくのサポーターやシーネ固定で、なんとなく治療されることがほとんど。
さらに厄介なのがそれでも痛みは引いていってしまうことなんですけどね。。

次回は、なんとなくの固定でも痛みが引いてしまうこの骨折。どこに治療の主眼を置くのか。についてお話しできればと思います。

なぜ多くの骨折は見逃されてしまうのか

それは骨片の位置関係に起因します
多くの場合前距腓靱帯の付着部で裂離骨折を起こすのですが、これが普通にレントゲンを撮ったのでは写らないのです

まずは前距腓靱帯の解剖から

⑧番が前距腓靱帯

この位置関係から足関節正面像では⑧の部分での骨折は写りません
   

ですので違う角度からレントゲンを撮る必要があります(ATFL View)
  

前距腓靱帯の付着部の骨折が疑われる場合はこの角度からの撮影をする必要があります
問診の際にレントゲンを何枚撮ったかを詳しく聞くのはこのためです

レントゲンの基本は正面像と側面像の2方向ですので、この撮影方法を追加しない場合、骨折が見逃されることがあります

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2855022/
http://www.txgs.umin.ne.jp/data/24th_slide02.pdf
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29992464/