肩の痛みで病院を受診され、「腱板断裂」と診断されて不安に思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
腱板というのは、肩の骨と筋肉をつなぐ「腱(けん)」の集まりで、特に肩を動かすために重要な役割を果たす棘上筋(きょくじょうきん)の腱が切れてしまう**状態を指すことがほとんどです。筋肉そのものが断裂することは非常に稀なんです。
「ドロップアーム」があるなら、手術も選択肢に
もし、腕を真横に持ち上げようとするとガクッと落ちてしまう**「ドロップアーム」**という症状がはっきりと見られる場合、私たちは手術をおすすめすることが少なくありません。
なぜなら、断裂した腱を固定して治すための**「外固定(がいこてい)」**という方法(例えば、ギプスなどで腕を固定する治療)には、いくつかのデメリットがあるからです。もちろん、専門家として患者さんの回復を一番に考えますが、長期にわたる固定は患者さんの負担も大きいです。
理想的な組織の修復だけを考えれば、しっかりとした固定が良いのは事実です。しかし、患者さんの日々の生活や、私たちの手間を考えると、現実的にはそこまでの厳密な固定は行わないことが多いです。
もし、どうしても手術はしたくない、保存療法で治したいと言われた場合、三角巾を使って少し腕を上げた状態に保つ程度の固定にとどめることもあります。それでも、意外と日常生活に支障がないくらいまで回復されます。
「治る」ってどういうこと?患者さんのゴールは一つじゃない
ここで少し深く考えてみたいのは、「組織が元通りに治ること」と、患者さんご自身が感じる「治った」という感覚には、違いがあるということです。
専門的な視点から見ると、腱が理想的に修復されるためには、良い血流が確保されたり、細胞がきちんと並び直したり、適切な負荷がかかるように正確な位置で外から固定したりする必要があります。
しかし、患者さんは病院での治療だけでなく、普段の生活も送りながら治療を受けることになります。そのため、長期間にわたって不自由な固定を続けることは、患者さんにとって大きな苦痛となり、治療を続けるのが難しくなってしまうこともあります。
さらに、腱板断裂の原因は一つだけではありません。年齢を重ねると腱の質が悪くなったり、脂肪が溜まったり、骨がもろくなったり、肩の周りの組織との摩擦が原因になったり、様々な要素が複雑に絡み合っていることが多いんです。細胞レベルで見ても、炎症が起きたり、成長を促す物質が足りなかったりと、「元通りの腱板」に戻るのを邪魔する要因がたくさんあります。
だからこそ、治療法を考える際には、このような医学的な知識を理解した上で、最終的には**「患者さんお一人お一人のニーズや、何をゴールとするか」**に合わせて治療法を選ばざるを得ないのです。
患者さんのゴールは、必ずしも「解剖学的に完璧な修復」ではないことも少なくありません。たとえ腱板が少し傷跡として残っていても、腕がある程度上がるようになり、日常生活が送れるようになって、痛みがコントロールできれば、患者さんにとってはそれで十分、ということもあります。
腱板が完全に治らなくても、周りの筋肉が代わりをしたり、リハビリテーションによって体の使い方が上手になったりすることで、日常生活に困らない程度の機能を取り戻せることも多いのです。
このように、実際の現場で「これで十分」と判断されるケースを考えると、必ずしも手術が必要とは限りません。
